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ニーチェにおけるニヒリズムと人間形成.pdf

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―  ―11  東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集?第1号(2007年)  ニーチェのニヒリズムは、特に心理的側面において、人間形成の問題としてとらえることが可能 である。これは、ニヒリズムの時代を生きるわれわれ人間のあり方や生き方について、実践の問題、 すなわち生きるという行為そのものの問題として扱われる。最も極端なニヒリズムにおいて無が永 遠回帰するとしても、それをおよそ到達しうる限り最高の肯定として能動的に受け止め、絶えざる 自己超克によって常に新たな価値創造を実践する生を生き抜くことにより、人間は本来の自己へと 形成されていくという人間形成観が、ニーチェのニヒリズム思想から見いだされる。価値ニヒリズ ムを肯定し、新たな価値を創造し続けることで生を生き抜くという新たな人間形成観を定立した ニーチェは、その理論的主張にとどまらず、各人の生において実践することをも求めた、現実的か つ実践的な思想をわれわれに贈与したのである。 キーワード:ニーチェ ニヒリズム 人間形成 自己超克 価値創造 1.問題の所在  ドイツの哲学者F.W.ニーチェ(Nietzsche,FriedrichWilhelm,1844-1900)によれば、われわれ が生きているこの時代はニヒリズムが到来した時代である。ニーチェが予言したのは「ヨーロッパ のニヒリズム」であるが、現代社会の様々な場面においてニヒリズムが語られる現状を鑑みるとき、 ニヒリズムはもはやヨーロッパにとどまらず、世界全体を覆っている思想であり、教育もその例外 ではない⑴。  さて、ニーチェの思想を教育の視点から考察した研究は、バーゼル大学における公開講演「われ われの教養施設の将来について」や、『反時代的考察』に含まれている「教育者としてのショーペン ハウアー」を主なテキストとした、初期ニーチェの教育論や教師論、Bildung という言葉に示され る教養観や人間形成観、そしてこれらから導出される自己形成思想を解明する研究が中心であった といえる⑵。その一方で、ニーチェにおけるニヒリズム思想は、多くの論者が指摘しているとおり、 「超人 derübermensch」、「永遠回帰 dieewigeWiederkehr」、「力への意志 derWillezurMacht」 などといった、後期ニーチェの主要概念に通底する極めて重要な概念であるにもかかわらず⑶、そ 東北大学大学院教育学研究科博士課程後期 ニーチェにおけるニヒリズムと人間形成 小野塚 正 樹 ―  ―12 ニーチェにおけるニヒリズムと人間形成 の内に秘められている人間形成思想を明らかにする研究はほとんどなされていない状況にある。  ところで、ボルノ (ーBollnow,OttoFriedrich,1903-1991)は、『実存哲学と教育学』の序論において、 教育学の歴史には「機械的(手細工的)教育概念 mechanische(handwerkliche)Vorstellung」と「有 機的教育概念 organischeVorstellung」という二つの根本的な見解がたえず繰り返し現れていると指 摘する⑷。前者の教育観は、手細工人が、前もって抱いている計画にしたがって、前もって与えられ ている材料をつかって、適当な道具を用いて品物をつくり出すように、教育者もまた、自己の心に 浮かぶ目標に向かって、自己にゆだねられた人間を一定の仕方で形成する、すなわち「つくる」とい う見方である。これに対して、後者の教育観は、植物がその種子にやどる素質を発達させるように、 人間もまた内部から自己のうちにそなわっている可能性を、自己自身のうちに設定された目標に向 かって発展させるという見方である。これらの教育観には両者とも、陶冶性の概念、すなわち連続 的な発展や漸次的な改造によって人間を教育することができるという前提が成立している。しかし、 これらの前提を実存哲学は否定するとボルノーが述べるように、先行研究によって示されたニー チェの人間形成観は、ボルノーが示す連続性に基づいた二つの教育観のいずれかに収斂するものと は考えにくい。われわれの生の実践的課題としてとらえたニーチェのニヒリズム思想を人間形成の 観点から考察することは、後期ニーチェの人間形成論を解明する鍵となるだけでなく、既存の教育 観に新たな知見をもたらすものと考える。  このような問題意識から、私は本稿において、無意味や無価値が永遠に続くこの現実世界におい て新たな価値を定立し続けることで自己を超克し、本来の自己へと形成されていくという、後期ニー チェ哲学の核心であるニヒリズム思想の考察をとおして見いだされるニーチェの人間形成思想につ いて明らかにすることを目
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