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熱工学(熱力学と伝熱工学)の歴史と現状
1.はじめに
熱工学はエネルギーの変化過程を論ずる学問としての熱力学と熱エネルギーの移動につ
いて議論する伝熱工学に大別される.熱力学は,理学?工学などの自然科学全体に必須の
基礎物理の一つであるとともに,機械工学の分野では,おもに熱エネルギーを機械仕事に
変換する熱機関(エンジン)の設計のための学問として発展してきており,自動車,航空
機,発電所などのエネルギー機器の設計には不可欠である.さらに,近年では,地球環境
との共生したエネルギー活用を考えるときにも重要な役割を担う.一方,伝熱工学は,熱
伝導,対流伝熱,放射伝熱と大別される様々な形態での熱移動と物質移動を論ずる.さま
ざまな自然現象や機械内外での熱移動の問題は,熱機関やエネルギー機器はもとより,程
度の差はあれ,あらゆる機械設計に関わる.
本稿では,熱力学および伝熱工学の学問体系について歴史的な視点から振り返るととも
に,近年の展開と現状について,人類の持続的発展に向けた地球環境との共生に向けた展
開,ナノ?マイクロスケール領域への展開,様々な実機器や生体に関わる熱工学の展開の
3つに分類して議論する.
2.歴史的変遷と基礎的学問体系
2-1.熱力学
古代ギリシャのアリストテレス(Aristoteless, BC384-BC322)の4元素は,「火」,「空気」,
「水」,「土」であり,火すなわち熱は自然界において,空気や水と並ぶ重要な物質と考え
られていた.その後,熱がエネルギーの一形態として認識され,熱力学といえる学問が発
展したのは 19 世紀になってからである.
人類は,長い間人力と家畜の力をエネルギーとして利用してきており,一部水車や風車
が使われ,熱は物体を加熱することに利用されてきた.熱を動力に変換して利用したのは
18 世紀初頭,ニューコメン(Thomas Newcomen)の熱機関(heat engine)が発明されてから
である.この熱機関はワット(James Watt)によって改良され,18 世紀後半に興る産業革命
の原動力となった. 一方,産業革命にともない,学問としての熱力学も急速な発展を遂げ
る.様々な熱機関が発明され,技術が発展するにともない燃料消費量の減少が重要な課題
となる.この課題に対して,19 世紀になり,1824 年カルノー(N. L. Sadi Carnot)は,熱を
仕事に変換するためには熱の一部を捨てる必要があることや熱機関の効率には上限がある
ことを明らかとした.このころから,熱がエネルギーの一形態として認識されるようにな
り,マイヤー(Julius R. von Mayer)が熱と仕事の透過性を見いだし,ジュール(James P.
Joule)が熱と仕事の等量を測定した.すなわち,力学エネルギーから熱エネルギーのように,
形態が変わってもその総量は一定であるとする熱力学の第一法則 (The first law of
thermodynamics)がこのころ確立している.熱機関で,エネルギーを消費することなく継
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続的に仕事をする機械(永久機関)は存在しないことになる.自然界のエネルギーは,力
学エネルギー,ポテンシャルエネルギー,熱エネルギー,化学エネルギー,電磁気エネル
ギー,核エネルギーなどに形態によって分類され,現在では,これらの形態を様々に変化
させて利用している.
一方,ガリレイ(Galileo Galilei, 1564-1642)の時代に温度計が発明され,それ以来,物体
の「温かい」,「冷たい」という状態を示す指標として“温度”が様々な定義で用いられて
きた.温度の概念の重要な発展は,下記の熱力学第 0 法則 (The zeroth law of
thermodynamics)として知られる.物質1と物質2を接触させて長時間放置すると温度の
高い物質から低い物質に熱が移動し熱平衡状態すなわち一定の“温度”となる.さて,物
質1と物質2が熱平衡状態で物質2と物質3とが熱平衡状態であれば,物質1と物質 3 も
熱平衡の状態になるとの法則である.つまり,温度とは熱平衡状態を示す状態量と定義で
きる.1848 年には,トムソン,後のケルビン卿(William Thomson, Lord Kelvin)が熱力学
的な絶対温度を提唱した.
これらの準備がそろい,1850 年にはクラジウス(Rudolf J. E. Clausius)によってエントロ
ピー(entropy)の概念が整理され,熱力学の第 2 法則が確立する.熱力学の第 2 法則はしば
しば難解な概念であるかのように議論されるが,「熱は低温の物質から高温の物質に
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